リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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りん酸ジメチル=2,2-ジクロロビニル

別   名 ジクロルボス、DDVP、ジメチル-2,2-ジクロロビニルホスフェート
PRTR政令番号 1-457 (旧政令番号:1-350)
C A S 番 号 62-73-7
構 造 式 りん酸ジメチル=2,2-ジクロロビニル構造式
  • りん酸ジメチル=2,2‐ジクロロビニルは、ジクロルボス、DDVPなどとも呼ばれ、有機りん系殺虫剤の有効成分(原体)として、農薬に使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約25トンでした。主に家庭で殺虫剤を使用する際に排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。

■用途

 りん酸ジメチル=2,2-ジクロロビニル(以下「ジクロルボス」と表記します)は、無色から淡黄色の油状の液体で、有機りん系殺虫剤の有効成分(原体)として、農薬に使われています。希釈剤や補助剤あるいは他の殺虫剤と混ぜて、エアゾール、乳剤、油剤などに製剤化されています。
 ジクロルボスは、きわめて速効性にすぐれており、果物や野菜のアブラムシ類やハマキムシ類、ガやダニの成虫の殺虫に利用されます。また、ジクロルボスは散布後に有効成分が早く消失するため、残留性を嫌う茶などの作物に利用されています。主に直接散布して使用されるほか、常温で揮発するため、くん蒸剤としても利用されています。
 また、ノミ取り用の動物用医薬品としても使われたり、家庭などで用いられるハエやカ、ゴキブリなどの駆除剤や、自治体や防除業者などが衛生害虫の駆除のために使用する防疫用殺虫剤にもジクロルボスを含むものがあります。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約25トンが環境中へ排出されたと見積もられています。主に家庭で殺虫剤を使用する際に排出されたほか、防疫用殺虫剤や農薬の使用に伴って排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。また、化学工業の事業所から廃棄物として約1.2トンが移動されました。

■環境中での動き

 ジクロルボスは、大気中、水中、土壌中では加水分解や微生物分解によって容易に分解されますが、木の表面では長くとどまり、散布33日後にも39%が残留しているとの報告があります1)。大気中では化学反応によっても分解され、約14時間で半分の濃度になると計算されています2)

■健康影響

毒 性 ジクロルボスは、コリンエステラーゼ(生体内に存在する酵素の一種)の活性を阻害して、神経系に影響を与えます。軽度の中毒症状として、倦怠感、頭痛、めまい、胸部圧迫感、軽度の運動失調、吐き気、おう吐などを示すことがあります3)
 ボランティアの人に体重1 kg当たり1日0.04 mgのジクロルボスを21日間投与した実験では、コリンエステラーゼ活性の阻害はみられませんでした4)。この実験結果に基づき、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同残留農薬専門家会議(JMPR)は、ジクロルボスのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1日0.004 mgと算出しています4)水道水質管理目標値水質要監視項目の指針値は、食品衛生調査会が算出したADIである体重1 kg当たり1日0.0033 mgに基づいて、設定されています。
 この他、ラットにジクロルボスを含む空気を2年間吸入させた実験では、脳のコリンエステラーゼ活性の低下が認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は0.05 mg/m3でした5)
 発がん性については、ラットを用いた実験ですい臓などにがんの発生がみられ、ジクロルボスの量の増加に従って腫瘍の発生の増加が報告されています6)国際がん研究機関(IARC)はジクロルボスをグループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)に分類しています。
 なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定されていませんが、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は1日8時間、週40時間の繰り返し労働における作業者の許容濃度を0.1 mg/m3と勧告しています。

体内への吸収と排出 人がジクロルボスを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、さまざまな代謝物に変化し、最終的には尿や便、呼気に含まれて排せつされます1)。ジクロルボスあるいは有害な代謝物質が体内へ蓄積することを示す証拠はみつかっていません1)

影 響 厚生労働省が行っている「食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果」によると、ジクロルボスの平均1日摂取量は0.00064〜0.00216 mgと推計されています7)。これは、体重50 kg換算のADI(体重1 kg当たり1日0.0033 mg)の0.39〜1.31%に相当します7)。また、水道水、河川や地下水からは水道水質管理目標値や水質要監視項目の指針値を超える濃度のジクロルボスは検出されておらず、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 呼吸によって取り込んだ場合について、最近の大気中濃度の測定結果はありませんが、市販されている吊り下げタイプ(蒸散型)のジクロルボスを含んだ殺虫剤を使用すると、蒸散したジクロルボスを体内に取り込む量が安全域を上まわるおそれがあるとして、厚生労働省では、人が長時間在室する居室や飲食する場所などでは、使用を避けるように注意を呼びかけています8)
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、呼吸から取り込んだ場合について、脳のコリンエステラーゼ活性の低下が認められたラットの実験におけるNOAELと大気中濃度の実測値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています5)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.0000013 mg/Lとしています2)。この環境リスク初期評価を行った時点では、河川からジクロルボスは検出されていないものの、検出下限値がこのPNECよりも高いため、水生生物への影響は評価できていません。最近の測定では、河川などからこのPNECを超える濃度のジクロルボスが検出されています。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、環境水中の水生生物へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとして、ジクロルボスを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質であるとしています5)

性 状 無色から淡黄色の液体  揮発性物質
生産量9)
(2010年)
国内生産量:−(不明または出荷・生産なし)
輸 入 量:−(不明または出荷・生産なし)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約25トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 0 大気 71
事業所(届出外) 0 公共用水域 22
非対象業種 26 土壌 8
移動体 埋立
家庭 74 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約0.10トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 100
事業所(届出)における移動量:約1.2トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 100
PRTR対象
選定理由
発がん性,経口慢性毒性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数4/51検体,最大濃度0.000013 mg/m3;[1993年度,環境省] 10)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/1150地点,浄水0/1090地点;[2009年度,日本水道協会]11) 12)
  • 厚生労働科学研究:検出数;原水15/557測定試料数(最大濃度0.00008 mg/L),浄水12/410測定試料(最大濃度0.0002 mg/L); [2002年度,厚生労働省] 13)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定(要監視項目):指針値超過数0/826地点(報告下限値0.0008 mg/L);[2010年度,環境省] 14)
  • 化学物質環境実態調査:検出数18/24検体,最大濃度0.00002 mg/L; [2006年度,環境省] 10)

地下水

  • 地下水質測定(要監視項目):指針値超過数0/281地点(報告下限値0.0008 mg/L);[2009年度,環境省] 15)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/30検体(検出下限値0.031 mg/kg);[1983年度,環境省]10)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
  • 水道法:水道水質管理目標値0.008 mg/L以下(農薬類;ジクロルボス)
  • 水質要監視項目指針値:0.008 mg/L以下
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)1 mg/L以下
  • 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,米(玄米)0.2 ppm,ばれいしょ0.1 ppm(ジクロルボス及びナレドとして)
  • 農薬取締法:登録農薬
  • 農薬取締法:水質汚濁に係る農薬登録保留基準値(0.08 mg/L)

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献

■適用作物に関する情報