■用途
亜鉛は、非鉄金属の中では銅、アルミニウムについで多く生産されている物質です。PRTR制度においては、亜鉛の化合物のうち、常温で中性の水に1%(質量比)以上溶ける物質を水溶性化合物としています。代表的なものとして塩化亜鉛や硫酸亜鉛があげられます。
塩化亜鉛は、常温で白色の固体です。亜鉛メッキの加工工程で皮膜を形成するために使われることが多いほか、染料や農薬等の合成原料、マンガン乾電池の電解液、活性炭の活性化剤などに使われています。
硫酸亜鉛は、常温で無色透明の固体です。レーヨンの製造過程で、液体のレーヨンを凝固させるための溶液として使われているほか、農業用途で使われています。硫酸亜鉛は、農作物への薬害や土壌のアルカリ化を防ぐために農薬や肥料に混合されたり、ミネラル分を強化する目的で家畜用飼料に添加されることもあります。同様な目的で、育児やペット用の粉ミルクにも含まれている製品があります。この他、メッキや汚水処理、結膜炎などの目の炎症を抑える目薬の添加剤などに使われています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約890トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが下水道業や非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、河川や海などへ排出されたほか、事業所内において埋立処分されるなどしました。この他、金属製品製造業、非鉄金属製造業や化学工業などの事業所から廃棄物として約5,300トンが移動されました。
なお、単体として使用される金属の亜鉛や酸化亜鉛などの水に溶けない亜鉛化合物は、PRTR制度の対象外となっており、上記の排出量には含まれていません。
大気中へ排出されると解離していない水溶性化合物の形で存在する可能性もありますが、環境中へ排出された亜鉛の水溶性化合物は、基本的には解離して亜鉛イオンとして存在します。その他、非水溶性の亜鉛化合物として、土壌や水底の泥、大気中にも分布していると予想されます。
なお、亜鉛は硫化鉱などの鉱物として広く産出され、地殻の表層部には重量比で0.004%程度存在し、クラーク数では31番目に多い元素です。
■健康影響(※本項目は、「亜鉛の水溶性化合物」ではなく「亜鉛」として記述します)
毒 性 塩化亜鉛は、マウスの骨髄細胞を使った染色体異常試験で陽性を示したと報告されています1)2)。なお、国際がん研究機関(IARC)は塩化亜鉛の発がん性について評価していません。
亜鉛は、人にとって必須元素で、たんぱく質や核酸の代謝にかかわって、正常な生命活動を維持するのに必要な栄養素で、欠乏すると味覚障害、皮膚や粘膜への障害などが起こります3)。一方、過剰な亜鉛の摂取は、必須元素のひとつである銅の吸収を妨げるおそれがあります3)。このため、亜鉛の食事摂取基準は、例えば30〜49歳の場合、推奨量が男性で1日当たり12 mg、女性で9 mg、耐容上限量(健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限)が男性で1日当たり45 mg、女性で35 mgとされています4)。
なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定されていませんが、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は1日8時間、週40時間の繰り返し労働における作業者の許容濃度を、塩化亜鉛について1 mg/m3と勧告しています。
体内への吸収と排出 人が亜鉛を体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、アルブミンなどのたんぱく質と結合して体内の組織に運ばれます2)5)。体内で不要となった亜鉛は、大部分は便に含まれて、一部は汗や尿に含まれて排せつされます2)。
影 響 平成22年国民健康・栄養調査によると、日本人の亜鉛の摂取量は30〜39歳、40〜49歳でいずれも1日当たり8.0 mgとなっており6)、食物を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
なお、口から取り込んだ場合について、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、亜鉛の食事摂取基準からの換算によって得られたNOAEL(無毒性量)と、国民健康・栄養調査結果による最も摂取量の多い年齢帯の1日推定摂取量及び水道水中濃度の実測値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。
また、亜鉛及びその化合物は大気中から検出されていますが、呼吸から取り込むことによる影響について、信頼性ある知見は得られていません7)。
この他、(独)産業技術総合研究所では、亜鉛について詳細リスク評価を行っています8)。
■生態影響(※本項目は、「亜鉛の水溶性化合物」ではなく「亜鉛」として記述します)
亜鉛はもともと自然界に存在する元素であり、河川、湖沼、海や川底の泥などから広く検出されています。水生生物保全の観点から定めた水質環境基準を超過している地点が多数あります9)。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、魚類の成長を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼす可能性が示唆されるとして、環境水中における亜鉛の存在状況、存在形態及び水生生物への影響などの調査、解析及び評価を行う必要があるとしています2)。
この他、(独)産業技術総合研究所では、亜鉛について詳細リスク評価を行っています8)。
| 性 状 |
塩化亜鉛:白色の固体 水に溶けやすい
硫酸亜鉛:無色透明の固体 水に溶けやすい |
生産量10)
(2010年) |
国内生産量:約19,000トン(塩化亜鉛) |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約890トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
81 |
大気 |
5 |
| 事業所(届出外) |
15 |
公共用水域 |
76 |
| 非対象業種 |
3 |
土壌 |
3 |
| 移動体 |
− |
埋立 |
15 |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約730トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 下水道業 |
65 |
| 非鉄金属製造業 |
17 |
| 化学工業 |
9 |
| 鉄鋼業 |
3 |
| 金属製品製造業 |
3 |
| 事業所(届出)における移動量:約5,300トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 金属製品製造業 |
45 |
| 非鉄金属製造業 |
22 |
| 化学工業 |
21 |
| 鉄鋼業 |
4 |
| 輸送用機械器具製造業 |
4 |
PRTR対象 選定理由 |
塩化亜鉛:変異原性,生態毒性(甲殻類)
硫酸亜鉛:生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(亜鉛及びその化合物として,一般環境大気):測定地点数15地点,検体数178検体,最小濃度0.000002 mg/m3未満,最高濃度0.00058 mg/m3;[2009年度,環境省]11)
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数(亜鉛及びその化合物として測定);原水0/5219地点,浄水0/5381地点;[2009年度,日本水道協会] 12)13)
公共用水域
- 要調査項目存在状況調査: 検出数27/40地点,最大濃度0.047 mg/L;[2002年度,環境省]14)
地下水
- 要調査項目存在状況調査:検出数4/10地点,最大濃度0.047 mg/L;[2002年度,環境省]14)
底質
- 要調査項目存在状況調査:検出数24/24地点,最大濃度0.89 mg/kg;[2002年度,環境省]15)
生物(貝)
- 化学物質環境実態調査(亜鉛として測定):検出数15/15検体,最大濃度43.0 mg/kg,魚 40/40検体,最大濃度8.88 mg/kg;[1979年度,環境省]16)
生物(魚)
- 化学物質環境実態調査(亜鉛として測定):検出数40/40検体,最大濃度8.88 mg/kg;[1979年度,環境省]16)
生物(鳥)
- 化学物質環境実態調査(亜鉛として測定):検出数8/8検体,最大濃度9.59 mg/kg;[1980年度,環境省]16)
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| 適用法令等 |
- 水道法:水道水質基準値1.0 mg/L以下(味覚及び色の観点から亜鉛として設定)
- 水質環境基準(水生生物の保全):(全亜鉛として設定)
河川及び湖沼(生物A;イワナ・サケマス域)0.03 mg/L
河川及び湖沼(生物特A;イワナ・サケマス特別域)0.03 mg/L
河川及び湖沼(生物B;コイ・フナ域)0.03 mg/L
河川及び湖沼(生物特B;コイ・フナ特別域)0.03 mg/L
海域(生物A;一般海域)0.02 mg/L
海域(生物特A;特別域)0.01 mg/L
- 水質汚濁防止法:排水基準5 mg/L (亜鉛含有量)
- 食品衛生法:残留農薬基準 対象外物質
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献