■用途
アクロレインは、常温で水に溶けやすい黄色または無色透明の液体で、揮発性物質です。強い刺激臭があります。栄養強化剤、飼料添加物や医薬品に使われるメチオニンの原料として使われるほか、殺菌消毒薬として使われるグルタルアルデヒドや、抗菌剤や医薬品の原料となるピリジンなどの原料として使われたり、繊維処理剤などとして使われています。
なお、車の排気ガスやたばこの煙にも含まれています。また、加熱した食用油からもアクロレインは発生します。これは、食用油に含まれる脂質の過酸化によって生成すると考えられています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約510トンが環境中へ排出されたと見積もられています。主に自動車やオートバイなどの排気ガスに含まれて排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。また、たばこの煙に含まれて、家庭をはじめとする喫煙場所からも排出されました。この他、自然科学研究所から廃棄物として約0.22トンが移動されました。
■環境中での動き
大気中へ排出されたアクロレインは、化学反応によって分解され、3.2〜32時間で半分の濃度になると計算されています1)。水中に入った場合は、大気中へゆっくりと揮発すると考えられますが、一部は他の物質に変化し、水中に残留すると推定されています2)。
なお、アクロレインは光化学オキシダントの原因物質のひとつです。
■健康影響
毒 性 ラットに0.92 mg/m3の濃度のアクロレインを含む空気を2年間吸入させた実験では、鼻粘膜の変性や鼻炎の発生が認められています1)。また、ラットに体重1 kg当たり1日0.5 mgのアクロレインを2年間、口から与えた実験では、死亡率の増加が認められています1)。
この他、イヌにアクロレインを含む空気を90日間吸入させた実験では、肺気腫、肺のうっ血などが認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のLOAEL(最小毒性量)は0.5 mg/m3でした2)。また、ラットにアクロレインを13 週間、口から与えた実験では、前胃などに出血、壊死や炎症などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日0.75 mgでした2)。
体内への吸収と排出 人がアクロレインを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水によると考えられます。また、加熱した食用油などを口にすることによっても体内に取り込まれる可能性があります3)。体内に取り込まれた場合は、いくつかの代謝物に変化し、尿に含まれて排せつされます2)。
影 響 呼吸によってアクロレインを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、鼻粘膜の変性などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を0.0016 mg/m3としています1)。この環境リスク初期評価が行われた時点では、大気中からアクロレインは検出されていいなかったものの、検出下限値が上記の無毒性量等より十分に低い値ではなかったため、人の健康への影響は評価できていませんでした。最近の測定では、大気中や室内空気中からアクロレインは検出されています。
食物や飲み水を通じて口から取り込んだ場合について、この環境リスク初期評価では、死亡率の増加が認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日0.05 mgとしています3)。アクロレインの食物中濃度及び地下水の測定データ(検出下限値0.0003 mg/L以下)から計算すると、人が口から取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.0023 mgと予測されます3)。これは、上記の無毒性量等を下まわっているものの十分に低いとは言えないため、環境省ではアクロレインを詳細な評価を行う候補としています1)。なお、この環境リスク初期評価以降に行われた食物中濃度の測定結果は、本評価で使われた食物濃度より大きいものでした4)。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、呼吸によって取り込んだ場合については、イヌの実験におけるLOAELと大気中濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、人の健康へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとしています2)。また、口から取り込んだ場合については、前胃などに出血が認められたラットの実験におけるNOAELと地下水中濃度の測定データ(不検出のため、検出下限値の1/2の値を用いた)及び食物中濃度の実測値を用いて評価し、この場合も人の健康へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとして、アクロレインを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています2)。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00014 mg/Lとしています3)。過去の測定では、まれにこのPNECを超える濃度のアクロレインが河川から検出されており、環境省ではアクロレインを詳細な評価を行う候補としています3)。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、藻類の生長阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。
| 性 状 |
黄色から無色透明の液体 水に溶けやすい 揮発性物質 |
生産量
(2010年) |
国内生産量:公表データなし |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約510トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
1 |
大気 |
98 |
| 事業所(届出外) |
− |
公共用水域 |
2 |
| 非対象業種 |
1 |
土壌 |
− |
| 移動体 |
85 |
埋立 |
− |
| 家庭 |
13 |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約3.7トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
100 |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| 事業所(届出)における移動量:約0.22トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
− |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 自然科学研究所 |
100 |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
PRTR対象 選定理由 |
経口慢性毒性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定地点数3地点,検体数12検体,最小濃度0.000038 mg/m3,最大濃度0.00034 mg/m3;[2009年度,環境省]5)
- 化学物質環境実態調査:検出数63/63検体,最大濃度0.0005 mg/m3;[2008年度,環境省]4)
室内空気
- 化学物質環境実態調査:検出数77/78検体,最大濃度0.006 mg/ m3;[2005年度,環境省]4)
公共用水域
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/45地点(検出下限値0.0003 mg/L);[2007年度,環境省]6)
地下水
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/5地点(検出下限値0.0003 mg/L);[2007年度,環境省]6)
底質
- 要調査項目存在状況調査:検出数1/24地点,最大濃度0.012 mg/kg;[2002年度,環境省]7)
食事
- 化学物質環境実態調査:検出数146/150検体,最大濃度0.2 mg/kg;[2005年度,環境省]4)
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| 適用法令等 |
- 大気汚染防止法:特定物質,揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
- 日本産業衛生学会勧告:作業環境許容濃度0.23 mg/m3(0.1 ppm)
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献