■用途
エピクロロヒドリンは、特有の臭いをもつ常温で無色透明の液体で、水に溶けやすく、揮発性物質です。他の化学物質の原料として使われており、主にエポキシ樹脂のほか、メタクリル酸2,3-エポキシプロピルや合成グリセリン(医薬品の合成などに使われる)などの原料として使われています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約58トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが化学工業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約340トン、下水道へ約1.2トンが移動されました。
■環境中での動き
大気中へ排出されたエピクロロヒドリンは、化学反応によって分解され、12〜24日で半分の濃度になると計算されています1)。水中に入った場合は、主に大気中へ揮発したり、加水分解され、加水分解で生成する化学物質も微生物によって分解されると考えられます2)。
■健康影響
毒 性 エピクロロヒドリンは、いくつかの種類の生物細胞やヒトリンパ球を用いた変異原性の試験で、陽性を示したと報告されています3)。また、ラットに体重1 kg当たり1日2 mgのエピクロロヒドリンを2年間、口から与えた実験では、前胃にがんの発生が報告されています3)。国際がん研究機関(IARC)はエピクロロヒドリンをグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類しています3)。
ラットの前胃にがんが認められた実験結果から、WHOの飲料水水質ガイドラインでは、TDI(耐容一日摂取量)を体重1 kg当たり1日0.00014 mgと算出しています。これに基づいて水質要監視項目の指針値が設定されています4) 5)。エピクロロヒドリンは、水質環境基準の設定が検討されましたが、2009年9月の中央環境審議会の答申において、指針値の根拠となる毒性情報に不確かさがあることから、引き続き要監視項目として知見の収集に努めることとされました6)。
また、ラットにエピクロロヒドリンを含む空気を13週間吸入させた実験では、鼻甲介気道の上皮に炎症などが認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は19 mg/m3でした2)。
なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定されていませんが、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は1日8時間、週40時間の繰り返し労働における作業者の許容濃度を1.9 mg/m3と勧告しています。
体内への吸収と排出 人がエピクロロヒドリンを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験では、代謝物に変化し、72時間後には、ほとんどが呼吸とともに吐き出されたり、尿に含まれて排せつされたと報告されています2)。
影 響 地下水からは水質要監視項目の指針値を超える濃度のエピクロロヒドリンは検出されていませんが、河川において指針値を超える濃度がまれに検出されています。このような汚染された水を長期間飲用するような場合を除いて、飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
なお、呼吸によってエピクロロヒドリンを取り込んだ場合について、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、鼻甲介気道の上皮に炎症などが認められたラットの実験におけるNOAELと大気中濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。ただし、エピクロロヒドリンは、変異原性を有する発がん物質の可能性があることから、詳細なリスク評価が必要な候補物質としています2)。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.011 mg/Lとしています1)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、急性毒性試験結果におけるグッピーの死亡を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことが示唆されるとして、エピクロロヒドリンを詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています2)。なお、本評価で用いた河川水中濃度は、2003年度のPRTRデータから推計しており、河川への排出量の約8割弱が、ひとつの事業所から特定の河川へ排出されたデータに基づいています2)。このため、同評価書では、水生生物に対する慢性毒性試験のデータを収集したり、排出事業所周辺の河川水中濃度について詳細に調べる必要があることを指摘しています2)。
| 性 状 |
無色透明の液体 水に溶けやすい 揮発性物質 |
生産量7)
(2010年) |
国内生産量:約110,000トン
輸 入 量:約15,000トン
輸 出 量:約23,000トン |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約58トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
100 |
大気 |
94 |
| 事業所(届出外) |
0 |
公共用水域 |
6 |
| 非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
| 移動体 |
− |
埋立 |
− |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約58トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
93 |
| 倉庫業 |
7 |
| プラスチック製品製造業 |
0 |
| − |
− |
| − |
− |
| 事業所(届出)における移動量:約340トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
98 |
| 精密機械器具製造業 |
1 |
| 倉庫業 |
1 |
| 石油製品・石炭製品製造業 |
0 |
| − |
− |
PRTR対象 選定理由 |
発がん性,変異原性,経口慢性毒性,作業環境許容濃度 |
| 環境データ |
大気
- 化学物質環境実態調査:検出数7/10検体,最大濃度0.0000028 mg/m3;[2002年度,環境省] 8)
公共用水域
- 公共用水域水質測定(要監視項目):指針値超過数2/578地点(報告下限値0.00004 mg/L);[2010年度,環境省] 9)
- 要調査項目存在状況調査:検出数8/101地点,最大濃度0.0012 mg/L;[2005年度,環境省]10)
地下水
- 地下水質測定(要監視項目):指針値超過数0/186地点(報告下限値0.00004 mg/L);[2009年度,環境省]11)
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/4地点(検出下限値0.00001 mg/L),検出数0/3地点(定量下限値0.00003 mg/L);[2005年度,環境省]10)
底質
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/24地点(検出下限値0.001 mg/kg);[2002年度,環境省] 12)
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| 適用法令等 |
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献