■用途
銀は、常温で白色の、展延性に富む金属です。わが国では、海外の銅、鉛や亜鉛鉱山から産出された鉱石を輸入して精錬する際に、副産物として生産されています。銀は装飾品、家庭用品や通貨として古くから使われてきました。現在は、感光性が高いことから写真感光用に用いられる硝酸銀の原料として使われるほか、電気接点材料、銀ろうや歯科治療材料などに使われています。
銀の水溶性化合物には硝酸銀などがあります。
硝酸銀は、常温で無色の、水に溶けやすい固体です。写真感光材料としてフィルムや印画紙に使われているほか、電気伝導性・熱伝導性が高いことなどから、携帯電話などの電気通信機器に使われています。また、鏡、魔法ビン、触媒や抗菌剤などにも使われています。
なお、近年、ナノ銀(ナノサイズの銀)がさまざまな分野で使われはじめていますが、このファクトシートではナノ銀に関しては言及しません。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約12トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが中小の事業所を含む非鉄金属製造業などの事業所から排出されたもので、主に事業所内において埋立処分されたほか、河川や海など及び大気中へも排出されました。この他、機械修理業や電気機械器具製造業などの事業所から廃棄物として約13トン、下水道へ約1.4トンが移動されました。
■環境中での動き
銀は地殻の表層部には重量比で0.00001%程度存在し、クラーク数では上位から69番目に数えられる元素です。地殻内では主に玄武岩や火成岩に集中しています1)。
大気中へ排出された銀は、硫化銀や硫酸銀などの不溶性の微粒子として、長距離を移動し、最終的に地表に降下して堆積するとされています1)。土壌中の銀が水中へ入った場合、有機物、粘土、マンガンや鉄の化合物に吸着され、水底の泥に堆積します1)。水中での流動性が低いため、天然水に含まれる量はきわめて少ないとされています1)。写真廃液が排出された場合は、公共下水処理によって約95%が取り除かれたという海外の報告があります1)。
■健康影響
毒 性 WHOは、疫学や薬物動態学の知見をもとに、生涯にわたって口から取り込む場合の人のNOAEL(無毒性量)を約10 gとみなしています2) 3)。このNOAELに対する飲料水の寄与は、通常は無視できる量として、WHOは飲料水について健康上のガイドライン値を設定することは必要ないとしています2) 3)。しかし、銀塩が飲料水の抗菌に役立っていることから、WHOは、飲料水に含まれる銀の濃度について、0.1 mg/L以上を健康リスク上、許容できない濃度としています2) 3)。これは、上記のNOAELの半量である5 gを70年以上かけて取り込んだ場合の濃度として算出したものです2) 3)。
また、銀を長期にわたって取り込んだ場合、目、鼻、咽頭や皮膚が灰青色に変色する銀沈着症にかかることがあります4)。米国環境保護庁では銀のRfD(参照用量、ADIに相当)を体重1 kg当たり1日0.005 mgとしています5)。これは、銀化合物を使用して銀沈着症になった患者70 症例に基づいて設定したものです5) 6)。米国では銀を含むダイエタリーサプリメントが販売されており、日本でも通信販売などで販売されている例があります。米国食品医薬品局(FDA)ではこれらの銀沈着症のリスクについて注意を喚起しています6)。
体内への吸収と排出 人が銀を体内に取り込む可能性があるのは、飲み水や呼吸によると考えられます。体内へ取り込まれた場合、胃腸などから吸収され、脾臓や肝臓などに分布します7)。排出に関する知見は得られていません。
影 響 大気中から銀は検出されていますが、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。
■生態影響
銀及びその水溶性化合物は甲殻類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。
なお、国際機関のデータ集では、銀及びその水溶性化合物の水生生物に対する急性毒性は非常に強いとされています1)。
| 性 状 |
銀:白色の固体
硝酸銀:無色の固体 水に溶けやすい |
生産量8)
(2010年) |
国内生産量:約1,900トン(電気銀)
輸 入 量:約200トン(粉),約1,900トン(加工していないもの)
輸 出 量:約2,700トン(粉),約69トン(加工していないもの) |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約12トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
57 |
大気 |
3 |
| 事業所(届出外) |
43 |
公共用水域 |
19 |
| 非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
| 移動体 |
− |
埋立 |
78 |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約6.8トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 非鉄金属製造業 |
99 |
| 化学工業 |
1 |
| 電気機械器具製造業 |
0 |
| 金属製品製造業 |
0 |
| 輸送用機械器具製造業 |
0 |
| 事業所(届出)における移動量:約14トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
90 |
下水道への移動 |
10 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 機械修理業 |
24 |
| 電気機械器具製造業 |
20 |
| 医療業 |
15 |
| 非鉄金属製造業 |
13 |
| 化学工業 |
13 |
PRTR対象 選定理由 |
作業環境許容濃度,生態毒性(甲殻類) |
| 環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定地点数1地点,検体数12検体,最小濃度0.0000012mg/m3,最大濃度0.0000006 mg/m3;[2009年度,環境]9)
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| 適用法令等 |
- 水道法:要検討項目(目標値未設定)
- 日本産業衛生学会勧告: 作業環境許容濃度0.01 mg/m3(銀及び銀化合物)
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献