リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

クレゾール

別   名 メチルフェノール、ヒドロキシトルエン、クレゾール酸
管理番号 86
PRTR政令番号 1-110(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 1319-77-3、95-48-7(o-)、108-39-4(m-)、106-44-5(p-)
構 造 式
[O-クレゾール] [m-クレゾール] [p-クレゾール]
o-クレゾール構造式 m-クレゾール構造式 p-クレゾール構造式
  • クレゾールは、合成樹脂や農薬などの原料として使われたり、電線ワニスの溶剤、消毒剤などに使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約39トンでした。ほとんどが事業所から排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。

■用途

 クレゾールは、フェノールのベンゼン環の水素の1つをメチル基(−CH3)で置き換えた構造をしており、トルエンを原料にして合成されたり、原油や石炭のタールから分留される副産物として生成されます。メチル基の位置により、o-クレゾール、m-クレゾールとp-クレゾールの3つの異性体があります。常温では、o-クレゾールとp-クレゾールは無色透明の固体、m-クレゾールは無色透明から黄色の液体で、揮発性物質です。これらの混合物は、常温で無色透明または黄色、黄褐色、あるいは桃色がかった液体です。各異性体、混合物とも、水に溶けやすい物質です。
 クレゾールは、エポキシ樹脂やフェノール樹脂、農薬や酸化防止剤などの原料として使われたり、電線ワニスの溶剤に使われています。とくにo-クレゾールから作られた合成樹脂は、IC(半導体集積回路)のチップなどを覆う黒い封止材として使われています。また、クレゾールそのものが防腐剤や消毒剤としても使われています。特有の臭いがあること、高濃度の液体に直接ふれると、やけどのような障害を起こすことなどから、医療機関では、最近はほとんど使用されなくなっていますが、水害後の感染症の予防や、鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の予防などに使われています。クレゾール石けんとして市販されているものは、液体石けんにクレゾールを加えた消毒剤です。また、家庭で用いられる殺虫剤(うじ用)にも、クレゾールを含むものがあります。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約39トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが非鉄金属製造業や化学工業などの事業所から排出されたほか、防疫用殺虫剤の使用に伴って排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。家庭からも、殺虫剤の使用に伴って排出されました。この他、これらの事業所から廃棄物として約490トン、下水道へ0.5トンが移動されました。

■環境中での動き

 環境中へ排出されたクレゾールは、大気中では、雨水によって多くは河川や土壌へ移動すると考えられます1)。また、大気中では化学反応によっても分解されますが、異性体ごとに分解速度は異なり、o-クレゾールでは5〜9時間、m-クレゾールでは3〜6時間、p-クレゾールでは4〜8時間で半分の濃度になると計算されています2)。環境水中にクレゾールが排出された場合は、酸素が十分ある状態では微生物分解され、酸素が少ない状態でも条件がそろえば微生物分解されると推定されています2)。また、土壌中に入ると、土壌の種類によって吸着する度合いが異なり、場合によっては地下水まで移動することがあります1)

■健康影響

毒 性 クレゾールは、すべての異性体でほぼ同様な毒性を示します2)。大量のクレゾールを飲み込むなどの事故では、血液、肝臓、腎臓や中枢神経への影響が報告されています2)
 ラットにo-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾールを13週間以上、それぞれ口から与えた二世代試験では、親ラット及び生まれたラットに、自発運動の低下、運動失調などの神経系への影響が認められ、この実験結果から口から取り込んだ場合の求められるNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日30 mgでした3)4)5)。なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」は、本実験のm-クレゾールにおいては、体重1 kg当たり1日30 mgを与えた場合に、子ラットに体重増加の抑制が認められたとして、この値をLOAEL(最小毒性量)と判断し、生殖・発生毒性のリスク評価に用いています2)
 この他、ラットにo-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾールをそれぞれ13週間、餌に混ぜて与えた実験では、震えやけいれん、嗜眠、体重増加の抑制などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAELは、体重1 kg当たり1日50 mgでした2)

体内への吸収と排出 人がクレゾールを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水によると考えられます。皮膚にふれることによる体内への取り込みは、クレゾールを取り扱う作業現場においては起こりえますが、私たちの日常生活では通常考えられません。体内に取り込まれた場合はすべての主要な臓器に分布した後、さまざまな代謝物に変化し、尿に含まれて排せつされます1)

影 響 食物や飲み水を通じて口からクレゾールを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、神経系への影響が認められたラットの二世代試験に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日2.1 mgとしています。クレゾールの地下水の測定データから計算すると、人が飲み水を通じて口から取り込む量は、o-クレゾールとm-クレゾールについては最大で体重1 kg当たり1日0.0000012 mg未満、p-クレゾールは最大で体重1 kg当たり1日0.000024 mg未満と予測されます3)4)5)。これは、上記の無毒性量等よりも十分に低く、また、環境に由来して食物から取り込む量は少ないと推定されていることから3)4)5)、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 最近の測定では、大気中からクレゾールは検出されていますが、呼吸によって取り込んだ場合について、人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、口から取り込んだ場合について、震えやけいれんなどが認められたラットの実験におけるNOAELと地下水中濃度の実測値及び魚体内濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康に悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。また、呼吸から取り込んだ場合のNOAEL等は得られていませんが、上記の評価に呼吸からの取り込み推計量を加えて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。さらに、生殖・発生毒性について、ラットの二世代試験におけるLOAELと地下水中濃度の実測値、魚体内濃度の推計値、大気中濃度の推計値を用いて評価を行い、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、o-クレゾールのPNEC(予想無影響濃度)を魚類の死亡を根拠として0.0084 mg/L、m-クレゾールのPNECを魚類の死亡を根拠として0.0089 mg/L、p-クレゾールのPNECをミジンコの繁殖阻害を根拠として0.0052 mg/Lとしています3)4)5)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこれらのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

性 状 混合物は無色透明または黄色、黄褐色あるいは桃色がかった液体  水に溶けやすい  揮発性物質
生産量6)
(2010年)
国内生産量:公表データなし
輸 入 量:約7,200トン(クレゾールとその塩として)
輸 出 量:約18,000トン(クレゾールとその塩として)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約39トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 92 大気 84
事業所(届出外) 3 公共用水域 16
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 6 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約36トン 業種別構成比(上位5業種、%)
非鉄金属製造業 66
化学工業 22
輸送用機械器具製造業 6
ゴム製品製造業 3
パルプ・紙・紙加工品製造業 3
事業所(届出)における移動量:約490トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 77
非鉄金属製造業 17
プラスチック製品製造業 5
輸送用機械器具製造業 0
パルプ・紙・紙加工品製造業 0
PRTR対象
選定理由
生態毒性(クレゾール:魚類,o-クレゾール:甲殻類,m-クレゾール:魚類,p-クレゾール:甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:
    o-クレゾール;検出数39/60検体,最大濃度0.000074 mg/m3;[2009年度,環境省]7)
    m-クレゾール;検出数42/60検体,最大濃度0.000044 mg/m3;[2009年度,環境省]7)
    p-クレゾール;検出数46/60検体,最大濃度0.000067 mg/m3;[2009年度,環境省]7)

水道水

  • 原水・浄水水質試験(フェノール類として):水道水質基準超過数;原水0/5202地点,浄水0/5386地点;[2009年度,日本水道協会]8)9)

公共用水域

  • 要調査項目存在状況調査:
    o-クレゾール;検出数1/76地点,最大濃度0.00021 mg/L;[2002年度,環境省]10)
    m-クレゾール;検出数0/76 地点(検出下限値0.00003 mg/L);[2002年度,環境省]10)
    p-クレゾール;検出数3/76 地点,最大濃度0.00004 mg/L;[2002年度,環境省]10)
  • 化学物質環境実態調査:
    o-クレゾール;検出数0/9検体(検出下限値0.01 mg/L);[1977年度,環境省]7)
    m-クレゾール;検出数0/9 検体(検出下限値0.01 mg/L);[1977年度,環境省]7)
    p-クレゾール;検出数1/33検体,最大濃度0.00067 mg/L;[1996年度,環境省]7)

地下水

  • 要調査項目存在状況調査:
    o-クレゾール;検出数0/15地点(検出下限値0.00003 mg/L);[2002年度,環境省]10)
    m-クレゾール;検出数0/15地点(検出下限値0.00003 mg/L);[2002年度,環境省]10)
    p-クレゾール;検出数1/15地点,最大濃度0.0006 mg/L;[2002年度,環境省]10)

底質

  • 化学物質環境実態調査:
    o-クレゾール;検出数0/9検体(検出下限値0.1 mg/kg);[1977年度,環境省]7)
    m-クレゾール;検出数0/9 検体(検出下限値0.1 mg/kg);[1977年度,環境省]7)
    p-クレゾール;検出数9/27検体,最大濃度1.23 mg/kg;[1996年度,環境省]7)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
  • 水道法:水道水質基準値0.005 mg/L以下(臭味発生防止の観点からフェノール類として設定)
  • 水質汚濁防止法:排水基準5 mg/L(フェノール類含有量)
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類
  • 労働安全衛生法:管理濃度5 ppm (20℃換算で22 mg/m3

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献