リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

酢酸2-メトキシエチル

別   名 エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2-メトキシエチルアセテート、酢酸メチルグリコール
管理番号 135
PRTR政令番号 1-160(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 110-49-6
構 造 式 酢酸2-メトキシエチル構造式
  • 酢酸2-メトキシエチルは、電子材料の洗浄溶剤、印刷インキや塗料などの溶剤として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約8.2トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 酢酸2-メトキシエチルは、水に溶けやすく、常温で無色透明の液体で、揮発性物質です。主に電子材料の洗浄溶剤として使われているほか、印刷インキ、塗料や金属板用接着剤の溶剤にも使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約8.2トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが電気機械器具製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、「その他の製造業」に分類される事業所や電気機械器具製造業などの事業所から廃棄物として約7.4トン、下水道へ0.001トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出された酢酸2-メトキシエチルは、化学反応によって分解され、1〜2日で半分の濃度になると計算されています1)。環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では、微生物分解はされやすいとされています1)

■健康影響

毒 性 妊娠中のマウスに、体重1 kg当たり1日1,225 mgの酢酸2-メトキシエチルを、妊娠6〜13日目に口から与えた実験では、すべての母動物において子宮内で吸収胚がみられたと報告されています1)
 この他、マウスに酢酸2-メトキシエチルを5週間、口から与えた実験では、精巣重量の減少、精細管の萎縮、精子・精子細胞・精母細胞の減少や白血球数の減少が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日250 mg(換算値180 mg)でした1)

体内への吸収と排出 人が酢酸2-メトキシエチルを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸や飲み水よると考えられます1)。体内に取り込まれた場合は、エチレングリコールモノメチルエーテルと酢酸に代謝され、さらにエチレングリコールモノメチルエーテルは、速やかに代謝物に変化し、尿に含まれて排せつされたり、呼気とともに吐き出されるとされています1)

影 響 飲み水や食物を通じて酢酸2-メトキシエチルを取り込んだ場合について、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、マウスの実験におけるNOAELと河川水中濃度及び魚体内濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。また、呼吸によって取り込んだ場合のNOAEL等は得られていませんが、上記の評価に呼吸からの取り込み推定量を加えて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)

■生態影響

 現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の推計値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)

性 状 無色透明の液体 水に溶けやすい 揮発性物質
生産量
(2010年)
国内生産量:公表データなし
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
注1
環境排出量:約8.2トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 98
事業所(届出外) 0 公共用水域 2
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約8.2トン 業種別構成比(上位5業種、%)
電気機械器具製造業 63
プラスチック製品製造業 15
鉄鋼業 12
化学工業 8
その他の製造業 2
事業所(届出)における移動量:約7.4トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
その他の製造業 45
電気機械器具製造業 30
化学工業 20
プラスチック製品製造業 5
PRTR対象
選定理由
生殖・発生毒性,作業環境許容濃度
環境データ

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/30検体(検出下限値0.0007 mg/L);[1986年度,環境省]2)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/30地点(検出下限値0.2 mg/kg);[1986年度,環境省]2)
適用法令等
  • 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性のある物質
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類と同程度に有害(環境大臣が指定)
  • 日本産業衛生学会勧告:作業環境許容濃度0.48 mg/m3(0.1 ppm)注2

注1)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
注2)適用法令等の項目中、「作業環境許容濃度」については平成28年7月に修正しました。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献