■用途
1,3-ジクロロプロペンは、常温で淡黄色の液体で、揮発性物質です。シス体とトランス体の異性体があります。農薬の有効成分(原体)で、土壌中の線虫や害虫を防除するくん蒸剤として使われています。
ジャガイモやサツマイモ、ニンジン、ゴボウ、スギ、ヒノキなどに被害を与えるネグサレセンチュウ、イシュクセンチュウやコガネムシなどに対して殺虫効果があり、種まきや植付けの10〜15日前に用いられます。
使用方法は、畑地に約30 cm間隔で深さ15〜20 cmの穴をあけ、1穴当たり2〜3 mlを注入後、すぐに土をかぶせ、塩化ビニル樹脂製やポリエチレン製のシートなどで覆います。土壌中で1,3-ジクロロプロペンはガスになって広がります。殺虫効果はこの蒸気によるものです。園芸用には用いられていません。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約8,900トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが農薬の使用に伴って排出されたもので、ほとんどが土壌へ排出されました。化学工業や倉庫業などの事業所からも排出されました。この他、化学工業の事業所から廃棄物として約450トン、下水道へ1 kg未満が移動されました。
■環境中での動き
土壌に散布された1,3-ジクロロプロペンは、加水分解によって分解され、土壌中では3〜65日以上で半分の濃度になったと報告されています1) 2)。水中では微生物や加水分解によって分解されます2)。加水分解によって、15℃の水中では約2週間で、29℃の水中では2日で半分の濃度になったと報告されています1) 2)。また、一部は大気中に放散されますが、大気中では化学反応によって分解され、2日程度で半分の濃度になると計算されています1)。なお、空中散布は行われていません。
■健康影響
毒 性 人の疫学調査において、精子数及び正常精子の割合への影響がみられなかったことから、1,3-ジクロロプロペンを空気中から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は4.5 mg/m3と報告されています1)。
1,3-ジクロロプロペンは、多くの変異原性の試験で陽性を示したと報告されています1) 2)。発がん性については、マウスに体重1 kg当たり50 mg/Lの1,3-ジクロロプロペンを2年間、口から与えた実験では、雌のマウスで膀胱の上皮にがんが認められました3)。国際がん研究機関(IARC)では1,3-ジクロロプロペンをグループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)に分類しています。このマウスの実験結果に基づいて、水道水質管理目標値や水質環境基準が設定されています 4)。
なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定されていませんが、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は1日8時間、週40時間の繰り返し労働における作業者の許容濃度を1 ppm(4.5 mg/m3)と勧告しています5)。
体内への吸収と排出 人が1,3-ジクロロプロペンを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験では、投与量の80〜90%は24時間以内に、ふんや尿に含まれて排せつされたり、または呼気とともに吐き出されています2)。
影 響 呼吸によって1,3-ジクロロプロペンを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、人の疫学調査に基づいて、無毒性量等を1.1 mg/m3としています3)。最近の測定における大気中の最大濃度は、この無毒性量等よりも十分に低いものでした。
水道水、河川や地下水から水道水質管理目標値や環境基準を超える濃度は検出されておらず、飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響も小さいと考えられます。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、藻類の現存量への影響を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.0009 mg/Lとしています1)。この環境リスク初期評価を行った当時は、検出下限値がこのPNECの値に近かったため、水生生物への影響は評価できていませんでしたが、最近の測定における河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いものでした。
なお、1,3-ジクロロプロペンは魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECは魚類の有害性から導くPNECより低い値です。
| 性 状 |
淡黄色の液体 揮発性物質 |
生産量6)
(2010年)※ |
国内生産量:約8,900トン(原体)
輸 入 量:約4,600トン(原体) |
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ) |
環境排出量:約8,900トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
0 |
大気 |
0 |
| 事業所(届出外) |
− |
公共用水域 |
0 |
| 非対象業種 |
100 |
土壌 |
100 |
| 移動体 |
− |
埋立 |
− |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約5.1トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
56 |
| 倉庫業 |
39 |
| 下水道業 |
5 |
| パルプ・紙・紙加工品製造業 |
0 |
| 一般廃棄物処理業(ごみ処分業に限る。) |
0 |
| 事業所(届出)における移動量:約450トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
100 |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
PRTR対象 選定理由 |
発がん性,変異原性,経口慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気):測定地点数1地点,検体数12検体,最小濃度0.000016 mg/m3未満,最大濃度0.00035 mg/m3;[2009年度,環境]7)
- 化学物質環境実態調査:
シス体;検出数18/60検体,最大濃度0.0001 mg/m3;[2004年度,環境省]8)
トランス体;検出数13/60検体,最大濃度0.00007 mg/m3;[2004年度,環境省]8)
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/989地点,浄水0/922地点;[2009年度,日本水道協会]9)10)
公共用水域
- 公共用水域水質測定:環境基準超過数 0/3482地点;[2010年度,環境省]11)
- 化学物質環境実態調査:
シス体;検出数0/42検体(検出下限値0.000009 mg/L);[2004年度,環境省]8)
トランス体;検出数0/42検体(検出下限値0.000008 mg/L);[2004年度,環境省]8)
地下水
- 地下水質測定:環境基準超過数;概況調査 0/2922本,汚染井戸周辺地区調査0/89本,継続監視調査0/261本;[2009年度,環境省]12)
土壌
- 土壌汚染調査:環境基準超過数(1991〜2009年度累積)6事例/10251調査事例;[2009年度,環境省]13)
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| 適用法令等 |
- 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法):優先評価化学物質
- 大気汚染防止法:揮発性有機化合物(VOC)として測定される可能性がある物質
- 水道法:水道水質管理目標値0.002 mg/L以下(農薬類;1,3-ジクロロプロペン)
- 水質環境基準(健康項目):0.002 mg/L以下
- 地下水環境基準:0.002 mg/L以下
- 水質汚濁防止法:有害物質,排水基準0.02 mg/L以下
- 土壌環境基準:0.002 mg/L以下
- 土壌汚染対策法:特定有害物質,土壌溶出量基準0.002 mg/L以下
- 海洋汚染防止法:有害液体物質X類
- 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)0.02 mg/L以下
- 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,ミネラルウォーター類0.02 ppm
- 農薬取締法:登録農薬
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
※本物質の生産量は2010年農薬年度(2009年10月〜2010年9月)のものです。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献
■適用作物に関する情報