リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

チオりん酸O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル)

別   名 フェニトロチオン、MEP
管理番号 251
PRTR政令番号 1-289(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 122-14-5
構 造 式 チオりん酸O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル)構造式
  • チオりん酸O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル)は、フェニトロチオン、MEPとも呼ばれ、有機りん系殺虫剤の有効成分(原体)として、農薬に使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約600トンでした。主に農薬の使用に伴って排出されたもので、ほとんどが土壌へ排出されました。

■用途

 チオりん酸O,O-ジメチル-O-(3-メチル-4-ニトロフェニル)(以下「フェニトロチオン」と表記します)は、有機りん系殺虫剤の有効成分(原体)で、主に農薬として使われています。
 殺虫剤は、20世紀初頭までは、ニコチン剤、除虫菊剤やヒ酸石灰などが用いられてきましたが、1930年代以降、有機りん化合物と有機塩素化合物の殺虫剤が使われるようになりました。日本では戦後、有機りん系殺虫剤の一種であるパラチオンがイネの害虫防除のために使われましたが、人への急性毒性が強く、また作物に残留することから、1971年から使用が禁止されました。フェニトロチオンは、パラチオンより人に対して毒性が少なく、同じような殺虫効力をもつ殺虫剤として開発されました。
 フェニトロチオンは、常温では黄褐色の液体です。フェニトロチオン単独、あるいは他の殺虫剤と混ぜて水和剤、乳剤、粉剤などに製剤化され、広く用いられています。アブラムシ類、ウンカ類、カメムシ類、アザミウマ類、ゾウムシ類、カイガラムシ、ケムシ・アオムシなど広範な害虫に効果があり、米や野菜・果樹、花きや観葉植物、庭木、森林の害虫防除のほか、ハエやカ、ゴキブリの防除といった衛生害虫の防除にも用いられます。家庭で用いられる園芸用の殺虫剤にも、フェニトロチオンを含むものがあります。また、アリ、ムカデ、ケムシを対象とした殺虫剤や、畳の防虫加工にも使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約600トンが環境中へ排出されたと見積もられています。主に農薬の使用に伴って農家や害虫防除・造園業者から排出されたもので、ほとんどが土壌へ排出されました。また、家庭からも、園芸用の殺虫剤の使用に伴って排出されました。この他、化学工業の事業所から廃棄物として約2.1トン、下水道へ約0.002トンが移動されました。

■環境中での動き

 田畑や森林に散布されたフェニトロチオンは、いったん大気中へ排出された後、大部分が農作物や土壌へ沈着し、一部は用水を通して河川へ排出されます。フェニトロチオンは太陽光や微生物によって分解されます1)

■健康影響

毒 性 フェニトロチオンは、コリンエステラーゼ(生体内に存在する酵素の一種)の活性を阻害して、神経系に影響を与えます。軽度の中毒症状として、倦怠感、頭痛、めまい、胸部圧迫感、軽度の運動失調、吐き気、おう吐などを示すことがあります2)
 ラットにフェニトロチオンを6カ月間、口から与えた実験では、コリンエステラーゼ活性の阻害が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合の NOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日0.6 mg でした3)
 この実験結果に基づいて、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同残留農薬専門家会議(JMPR)は、2007年にフェニトロチオンのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1日0.006 mgと再評価しました3)。わが国では、再評価前の体重1 kg当たり1日0.005 mg とするADIに基づいて、水道水質管理目標値水質要監視項目の指針値が設定されています。

体内への吸収と排出 人がフェニトロチオンを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ボランティアの人による実験では、24時間以内に尿に含まれて排せつされたと報告されています1)

影 響 厚生労働省が行っている「食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果」によると、フェニトロチオンの平均1日摂取量は、0.00077〜0.00712 mgと推計されています4)。これは、体重50 kg換算のADI(体重1 kg当たり1日0.005 mg)の0.28〜2.85%に相当します4)。水道水や地下水からは水道水質管理目標値を超える濃度のフェニトロチオンは検出されていませんが、河川から水質要監視項目の指針値を超える濃度が一例検出されています。このような汚染された水を長期間飲用するような場合を除いて、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
 林野庁の「平成17年度松くい虫特別防除の自然環境等影響調査」(実施県8県)によれば、散布区域外のフェニトロチオンの濃度は、8県すべてで航空防除農薬の気中濃度評価値を下まわっていました。また、1県では散布区域内で気中濃度評価値を超えた濃度が検出されましたが、散布翌日には評価値以下となり、散布4日以降は検出限界値未満となったと報告されています5)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.00000021 mg/Lとしています6)。最近の測定では、河川などからこのPNECを超える濃度が検出されています。

性 状 黄褐色の液体
生産量7)
(2010年)
国内生産量:約1,600キロリットル(原体)
輸 出 量:約1,300キロリットル(原体),約68キロリットル(製剤)
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環環境排出量:約600トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 0 大気 0
事業所(届出外) 0 公共用水域 5
非対象業種 81 土壌 95
移動体 埋立
家庭 19 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約0トン(1 kg未満) 業種別構成比(上位5業種、%)
全体の届出排出量が1 kg未満のため省略します
事業所(届出)における移動量:約2.1トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 0
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 100
PRTR対象
選定理由
経口慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(甲殻類)
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数2/45検体,最大濃度0.000045 mg/m3;[1993年度,環境省]8)

水道水

  • 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/1355地点,浄水0/1156地点;[2009年度,日本水道協会]9) 10)

公共用水域

  • 公共用水域水質測定(要監視項目):指針値超過数1/909地点;[2010年度,環境省]11)
  • 要調査項目存在状況調査:検出数21/30地点,最大濃度0.00048 mg/L;[2009年度,環境省]12)
  • 化学物質環境実態調査:検出数16/18検体,最大濃度0.0000048 mg/L;[2006年度,環境省]8)

地下水

  • 地下水質測定(要監視項目):指針値超過数0/281地点;[2009年度,環境省]13)

底質

  • 化学物質環境実態調査:検出数0/30検体( 検出下限値0.0012〜0.02 mg/kg);[1983年度,環境省]8)

その他

適用法令等
  • 航空防除農薬の気中濃度評価値:0.01 mg/m3(散布区域内)
  • 水道法:水道水質管理目標値0.003 mg/L以下(農薬類;フェニトロチオン)
  • 水質要監視項目指針値:0.003 mg/L以下
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)1 mg/L以下
  • ゴルフ場使用農薬に係る暫定指導指針値:0.03 mg/L(排水口)
  • 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,米(玄米)0.2 ppm,ばれいしょ0.05 ppm
  • 日本産業衛生学会勧告:作業環境許容濃度1 mg/m3(皮)
  • 農薬取締法:登録農薬

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
※本物質の生産量は2010年農薬年度(2009年10月〜2010年9月)のものです。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献

■適用作物に関する情報