■用途
テトラメチルチウラムジスルフィド(以下「チウラム」と表記します)は、常温で白色または薄い紅色の固体です。殺菌剤の有効成分(原体)として使われるほか、ゴムの加硫促進剤としても使われています。
チウラムは、菌のSH酵素や金属酵素の活性を阻害して殺菌効果を発揮すると考えられています。開発当初は、穀類、野菜類、花き類の種子消毒剤として使われましたが、現在は、マメ類の立枯病、リンゴの黒星病、黒点病、ジャガイモの黒痣病や、ゴルフ場などの芝生の葉枯病の病害防除にも使われています。また、ネズミやウサギに対する忌避剤としても使われています。チウラム単独で、またはジラムなどの他の
農薬と混合して、水和剤や粉剤に製剤化されています。また、家庭で用いられるネズミ忌避剤にも、チウラムを含むものがあります。
チウラムは、天然ゴムや合成ゴムの加硫促進剤としても使われています。加硫とは、原料ゴムに高い弾力性を与えるために、硫黄によって分子間の結合を強化させることですが、加硫は長い時間を要するため、加硫促進剤が添加されます。チウラムが用いられたゴムは、タイヤ、履物や電線などに使われています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約260トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが農薬の使用に伴って排出されたもので、ほとんどが土壌へ排出されました。家庭からも、わずかですが排出されました。この他、ゴム製品製造業などの事業所から廃棄物として約34トン、下水道へ1 kg未満が移動されました。
■環境中での動き
土壌へ排出されたチウラムは、有機物に富む土壌では微生物分解され、酸性土壌では加水分解によって失われていきます1)。大気中へは揮発しません1)。また、土壌中の粒子に吸着しやすいため、地下水は汚染しないと考えられます1)。土壌中では15日間で半分の濃度になると報告されています1)。水中に入った場合、光分解や加水分解によって分解されると考えられます1)。また、水中の粒子や水底の泥に吸着する可能性もあります1)。大気中では化学反応によって分解され、約1時間で半分の濃度になると計算されています2)。
■健康影響
毒 性 チウラムは、マウスの生殖細胞を使った染色体異常試験で陽性を示したと報告されています3)。発がん性については、ラットの実験では腫瘍の発生率の増加はみられていません4)。国際がん研究機関(IARC)は、チウラムをグループ3(人に対する発がん性については分類できない)に分類しています4)。
雌雄のイヌにチウラムを1年間、餌に混ぜて与えた実験では、肝臓重量の増加、赤血球数の減少などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり雄で1日0.84 mg、雌で1日2.5 mgでした5)。また、雌雄のラットにチウラムを2年間、餌に混ぜて与えた実験では、貧血などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり雄で1日1.2 mg、雌で1日1.4 mgでした5)。
これらの実験結果から、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同残留農薬専門家会議(JMPR)は、チウラムのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1 日0.01 mgとしています5)。
わが国では、ADIを体重1 kg当たり1 日0.0084 mgとして、これに基づいて水道水質管理目標値(0.02 mg/L以下)が設定されています6)。また、ゴルフ場の農薬使用が社会問題化したことをきっかけに、1990年に「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針」が示されましたが、その後、河川や地下水から広範囲で高い濃度のチウラムが検出されたことから、1993年に水質環境基準(0.006 mg/L以下)が定められています7)。
体内への吸収と排出 人がチウラムを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験によると、代謝物に変化し、主に尿に含まれて排せつされるほか、ふんや呼気に含まれて排せつされたと報告されています5)。
影 響 食物からのチウラムの摂取量に関する情報は現在のところ得られていませんが、農林水産省が実施した国内産農産物における残留状況調査では、チウラムは検出されていません8)。水道水、河川や地下水からは、水道水質管理目標値や水質環境基準を超える濃度のチウラムは検出されておらず、飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.000003 mg/Lとしています2)。河川からこのPNECを超える濃度のチウラムが過去に検出されたことがあり、環境省は河川ではチウラムを詳細な評価を行う候補としています2)。海域ではこのPNECを超える濃度のチウラムが検出されたことはありませんが、検出下限値がPNECの値よりも大きいため、検出下限値を見直し、海域における環境中濃度の測定を優先的に行う必要があるとしています2)。
| 性 状 |
白色または薄い紅色の固体 |
生産量9)
(2010年) |
国内生産量:約800トン |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約260トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
0 |
大気 |
0 |
| 事業所(届出外) |
0 |
公共用水域 |
1 |
| 非対象業種 |
99 |
土壌 |
99 |
| 移動体 |
− |
埋立 |
− |
| 家庭 |
0 |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約1.1トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 下水道業 |
90 |
| 一般廃棄物処理業(ごみ処分業に限る。) |
4 |
| パルプ・紙・紙加工品製造業 |
2 |
| ゴム製品製造業 |
1 |
| 産業廃棄物処分業(特別管理産業廃棄物処分業を含む。) |
1 |
| 事業所(届出)における移動量:約34トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| ゴム製品製造業 |
89 |
| 化学工業 |
7 |
| 輸送用機械器具製造業 |
2 |
| 繊維工業 |
2 |
| プラスチック製品製造業 |
0 |
PRTR対象 選定理由 |
変異原性,経口慢性毒性,生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/972地点,浄水0/888地点;[2009年度,日本水道協会]10) 11)
公共用水域
- 公共用水域水質測定:環境基準超過数0/3424地点;[2010年度,環境省]12)
地下水
- 地下水質測定:環境基準超過数;概況調査0/2585本,汚染井戸周辺地区調査0/0本,継続監視調査0/53本;[2009年度,環境省] 13)
底質
- 化学物質環境実態調査;検出数0/27検体(検出下限値0.02 mg/kg);[1985年度,環境省]14)
土壌
- 土壌汚染調査:環境基準超過数(1991〜2009年度累積)0/10251調査事例;[2009年度,環境省]15)
その他
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| 適用法令等 |
- 水道法:水道水質管理目標値0.02 mg/L以下(農薬類;チウラム)
- 水質環境基準(健康項目):0.006 mg/L以下
- 地下水環境基準:0.006 mg/L以下
- 土壌環境基準:0.006 mg/L以下
- 水質汚濁防止法:有害物質,排水基準0.06 mg/L以下
- 土壌汚染対策法:特定有害物質,土壌溶出量基準0.006 mg/L以下
- 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)0.06 mg/L以下
- ゴルフ場使用農薬に係る暫定指導指針値:0.2 mg/L(排水口)
- 食品衛生法:残留農薬基準(ジチオカルバメート;ジネブ,ジラム,チラム,ニッケルビス(ジチオカーバメート),フェルバム,プロピネブ,ポリカーバメート,マンコゼブ,マンネブ及びメチラムを二硫化炭素含量に換算したものの総和) 例えば,米(玄米)0.3 ppm,ばれいしょ0.2 ppm
- 農薬取締法:登録農薬
- 農薬取締法:水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準(0.01 mg/L)
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献
■適用作物に関する情報