■用途
銅水溶性塩としてよく知られているものに、硫酸銅と塩化銅(II)があります。
無水和物の硫酸銅は、常温で白色の吸湿性の固体ですが、水を吸うと青くなります。硫酸銅は、石灰と混ぜてブドウに散布する殺菌剤(ボルドー液)として、19世紀にヨーロッパで使われはじめ、現在でも農薬として広く使われています。また、同じく19世紀に、硫酸銅を使用したキュプラ(繊維)が発明されました。これは綿やパルプからとったセルロースを、硫酸銅を含んだ液に溶かし、水中で糸状にしたもので、微細な繊維ができることから絹のような光沢と肌触りがあり、現在も洋服の裏地や婦人用肌着に使われています。他にも顔料、電池、医薬、冶金、銅塩類の原料、銅メッキ、媒染剤、皮なめしなどに使われています。
塩化銅(II)は、常温で茶褐色の固体で、殺菌剤、染色補助剤や顔料の原料、クロロエチレンの合成用触媒として使われています。また、天然の葉緑素(クロロフィル)と塩化銅(II)を反応させると安定な銅クロロフィルができます。これは食品添加物(着色料)としてチューインガムなどに加えられています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約200トンが環境中へ排出されたと見積もられています。ほとんどが非鉄金属製造業や下水道業などの事業所からの排出されたもので、河川や海などへ排出されたほか、事業所内において埋立処分されたり、大気中などへも排出されました。この他、電気機械器具製造業などの事業所から廃棄物として約1,800トン、下水道へ約6.5トンが移動されました。
環境中へ排出された銅水溶性塩は、水中ではさまざまな金属酸化物に容易に吸着したり1)、解離して銅イオンとして存在します。大気中へ排出された場合は、主に粒子に吸着した形で存在し、雨に流されるなどして土壌中や水中へ移動すると推定されます。土壌中では、土壌に吸着されやすい性質から、ほとんどが地表近くの土壌に存在するほか1)、一部は雨に流されて水中に入ると推定されます。
なお、銅は地殻の表層部には重量比で0.01%程度存在し、クラーク数で25番目に多い元素です。
■健康影響(※本項目は、「銅水溶性塩」ではなく「銅」として記述します)
毒 性 銅は、人にとって必須微量元素で、欠乏すると貧血、毛髪異常、白血球減少、骨異常、成長障害などが起こることが報告されていますが、逆に過剰に摂取するとまれに銅中毒を起こし、急性中毒では吐き気、嘔吐、下痢、低血圧など、慢性では発熱、嘔吐、黄疸などが報告されています2)。このため、銅の食事摂取基準は、例えば30〜49歳の場合、推奨量が男性1日当たり0.9 mg、女性で0.7 mg、耐容上限量(健康障害をもたらす危険がないとみなされる習慣的な摂取量の上限)は男女とも1日当たり10 mgとされています3)。なお、食品安全委員会では、2009年に清涼飲料水における銅の許容上限摂取量(過剰摂取による健康障害を防ぐ上限値)を成人で1日当たり9 mgと評価しています4)。
世界保健機関(WHO)は、銅を含む飲料水による消化管への一過的な影響に基づいて、暫定的な水質基準値として2 mg/Lと設定していますが、日本の水道水質基準は、毒性で問題となる濃度よりも、銅特有の金属味や着色といった利水障害を起こす濃度のほうが低いとして、洗濯物などへの着色を防止する観点から1 mg/L以下と設定しています5)。
硫酸銅については、マウスの骨髄細胞を使った染色体の異常を調べる試験で、陽性を示したと報告されています6)。
体内への吸収と排出 人が銅を体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は肝臓に入り、胆汁を介して便に含まれて排せつされたり、細胞内や細胞外のたんぱく質に取り込まれます1)。
影 響 もともと自然界に存在するため、銅は河川や地下水から検出されていますが、水道浄水からは水道水質基準を超える濃度の銅は検出されていません。また、平成22年国民健康・栄養調査によると、銅摂取量の1日当たりの平均は、30〜39歳で男性1.19 mg、女性0.98 mg、40〜49歳で男性1.20 mg、女性1.00 mgとなっており7)、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
銅は大気中からも検出されていますが、呼吸によって取り込んだ場合の人の健康への影響を評価できる情報は現在のところ報告されていません。
■生態影響
銅水溶性塩は、甲殻類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。銅は、水生生物に対し急性毒性も慢性毒性も非常に強く、生物に濃縮することも報告されており、生態系に影響を及ぼすおそれがあるとされています8)。これは水中の銅イオンに由来すると考えられています。
また、土壌環境基準として農作物(米)の生育阻害防止の観点から、「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律(農用地土壌汚染防止法)」によって、銅及びその化合物の農用地(田に限る)の土壌中の基準値は125 mg/kgと定められています。2003年度には1地域で基準値以上の濃度が検出されています9)。
性 状 |
硫酸銅:白色の固体
塩化銅(II):茶褐色固体 |
生産量10)
(2010年) |
【硫酸銅】
国内生産量:約640トン(原体) 約750トン(製剤)
【塩化銅(II)】
国内生産量:約600トン (推定) |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約200トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
事業所(届出) |
91 |
大気 |
8 |
事業所(届出外) |
7 |
公共用水域 |
58 |
非対象業種 |
2 |
土壌 |
2 |
移動体 |
− |
埋立 |
32 |
家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
事業所(届出)における排出量:約180トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
非鉄金属製造業 |
45 |
下水道業 |
30 |
化学工業 |
8 |
輸送用機械器具製造業 |
8 |
電気機械器具製造業 |
4 |
事業所(届出)における移動量:約1,800トン |
移動先の内訳(%) |
廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
業種別構成比(上位5業種、%) |
電気機械器具製造業 |
65 |
非鉄金属製造業 |
11 |
金属製品製造業 |
7 |
プラスチック製品製造業 |
5 |
出版・印刷・同関連産業 |
4 |
PRTR対象 選定理由 |
変異原性,生態毒性(硫酸銅(II)無水和物:甲殻類,塩化銅(II):甲殻類) |
環境データ |
大気
- 有害大気汚染物質モニタリング調査(一般環境大気 銅及びその化合物):測定地点数4地点,検体数48検体,最小濃度0.0000084 mg/m3,最大濃度0.000033 mg/m3;[2009年度,環境]11)
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数(銅及びその化合物として測定);原水1/5222地点,浄水0/5371地点;[2009年度,日本水道協会]12)13)
公共用水域
- 要調査項目存在状況調査(銅として測定):検出数42/43地点,最大濃度0.047 mg/L;[2010年度,環境省]14)
- 要調査項目存在状況調査(硫酸銅 (硫酸銅の分析結果は、硫酸イオンと銅とを分析し、そのうち低濃度の値を用いて分子量換算により硫酸銅として算出した値)):検出数0/43地点(定量下限値0.02 mg/L);[2010年度,環境省]14)
地下水
- 要調査項目存在状況調査(銅として測定):検出数4/4地点,最大濃度0.015 mg/L;[2010年度,環境省]14)
底質
- 要調査項目存在状況調査(銅及びその化合物として測定):検出数24/24地点,最高濃度1.7 mg/kg;[2002年度,環境省]15)
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適用法令等 |
- 水道法:水道水質基準値1.0 mg/L以下(着色防止の観点から設定)
- 水質汚濁防止法:排水基準3 mg/L以下(銅含有量)
- 農用地土壌汚染防止法:特定有害物質
- 土壌環境基準:125 mg/kg以下(農用地(田)に限る)
- 食品衛生法
:残留農薬基準 対象外物質(銅として)
:食品添加物使用基準 例えば,チューインガム0.05g/kg(銅として)
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献