リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

トリレンジイソシアネート

別   名 m-トリレンジイソシアネート、m-TDI、メチル-1,3-フェニレン=ジイソシアネート
管理番号 298
PRTR政令番号 1-345(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 26471-62-5
構 造 式  
[2,4-体] [2,6-体]
メチル-1,3-フェニレン=ジイソシアネート[2,4-体]構造式 メチル-1,3-フェニレン=ジイソシアネート[2,6-体]構造式
  • トリレンジイソシアネートは、ウレタンフォーム、塗料や断熱材などとして利用されるポリウレタンの原料として使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約2.8トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。

■用途

 トリレンジイソシアネートは、2,4-体と2,6-体などの異性体があり、市販されているものは2,4-体と2,6-体の混合物です。常温で刺激臭のある無色または淡黄色透明の液体です。
 トリレンジイソシアネートは、ポリウレタンの主要な原料のひとつとして利用されています。ポリウレタンは、原料の比率や製法などによって硬くも柔らかくもなることから、ウレタンフォーム、塗料、エラストマー (台車の車輪、ベルトコンベアのベルト等)や接着剤などとして使われています。
 ウレタンフォームは、軟質フォームとしては、車両のシートやクッション材、家庭用ソファ、ベッドやマットレスなどに、また硬質フォームは、断熱・保冷のために冷蔵庫や建築用などに使用されています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約2.8トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが化学工業やプラスチック製品製造業などの事業所から排出されたもので、ほとんどが大気中へ排出されました。この他、プラスチック製品製造業や輸送用機械器具製造業などの事業所から廃棄物として約56トンが移動されました。

■環境中での動き

 トリレンジイソシアネートは、容易に水と反応します1)。大気中へ排出された場合、水蒸気や雨にふれると、トルエンジアミン (TDA) やポリウレアという物質に分解され、これらで組成される化合物の混合物となると推定されています1)。また、化学反応によっても分解され、1〜2日で半分の濃度になると計算されています1)。水中に入った場合も加水分解され、二酸化炭素、TDAとポリウレアになると推定されています1)。トリレンジイソシアネートの濃度が低いほど、TDA の生成割合が高くなるとされています1)。TDA は、酸素が十分ある条件下では微生物分解はされにくいものの、条件がととのえば微生物分解されると推定されています1)

■健康影響

毒 性 ポリウレタン樹脂を使用する作業者の疫学調査では、すでに感作された人に0.007 mg/m3のトリレンジイソシアネートを空気から吸入させたところ、ぜん息反応が認められています2)。また、トリレンジイソシアネートの製造工場における作業者の疫学調査では、呼吸器への影響が認められ、これに基づいて(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」はNOAEL(無毒性量)を0.005 ppm(0.036 mg/m3)と判断しています1)
 ヒトリンパ球などを用いた変異原性の試験では、陽性を示したと報告されています1)。発がん性については、ラットに体重1 kg当たり1日60 mgのトリレンジイソシアネートを2年間、口から与えた実験では、すい臓に良性腫瘍やがんの発生率の増加が報告されています2)国際がん研究機関(IARC)はトリレンジイソシアネートをグループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)に分類しています。
 この他、マウスにトリレンジイソシアネートを含む空気を104週間吸入させた実験では、慢性鼻炎または壊死性鼻炎などが認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のLOAEL(最小毒性量)は0.05 ppm(0.36 mg/m3)でした1)。また、ラットにトリレンジイソシアネートを106週間、口から与えた実験では、体重増加の抑制や急性気管支肺炎の増加などが認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のLOAELは、体重1 kg当たり1日23 mgでした1)

体内への吸収と排出 人がトリレンジイソシアネートを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸によると考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験によれば、口から取り込んだ場合には、投与して48時間後には、大部分がポリウレアとしてふんに含まれて排せつされたと報告されています1)。また、加水分解によって生じたTDAは、さらに代謝物に変化し、尿に含まれて排せつされます1)。一方、呼吸から取り込んだ場合には、トリレンジイソシアネートはヘモグロビンと付加体を形成し、48 時間後もかなりの割合で存在します1)。その後、代謝されて、尿に含まれて排せつされたと報告されています1)

影 響 呼吸によってトリレンジイソシアネートを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ぜん息反応が認められた疫学調査に基づいて無毒性量等を0.0002 mg/m3としています2)。大気中濃度に関する測定結果はなく、人の健康への影響は評価できていません。
 なお、呼吸によって取り込んだ場合について、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、疫学調査におけるNOAELと大気中濃度の推計値、慢性鼻炎などが認められたマウスの実験におけるLOAELと大気中濃度の推計値を用いて、人の健康影響を評価しており、いずれの場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。また、口から取り込んだ場合については、体重増加の抑制などが認められたラットの実験におけるLOAELに基づき評価を行っています。この評価書では、トリレンジイソシアネートは水と反応して速やかに加水分解されることから、口から取り込まれることは想定されないとして、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。ただし、トリレンジイソシアネートは、変異原性を有する発がん性物質の可能性があり、詳細なリスク評価を行う候補物質としています1)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、魚類の死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.16 mg/Lとしています2)。河川や海域の水中濃度について測定データが得られておらず、水生生物への影響は評価できていません。
 なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、魚類の死亡を指標として水生生物に対する影響について評価を行っており、トリレンジイソシアネートの河川水中濃度をゼロと推計し、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)

性 状 無色または淡黄色透明の液体
生産量3)
(2010年)
国内生産量:公表データなし
輸 入 量:約4,600トン
輸 出 量:約140,000トン
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:約2.8トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 100
事業所(届出外) 0 公共用水域 0
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:約2.8トン 業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 61
プラスチック製品製造業 26
ゴム製品製造業 8
輸送用機械器具製造業 5
倉庫業 0
事業所(届出)における移動量:約56トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動
業種別構成比(上位5業種、%)
プラスチック製品製造業 59
輸送用機械器具製造業 22
化学工業 10
ゴム製品製造業 5
自然科学研究所 3
PRTR対象
選定理由
発がん性,変異原性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,感作性生態毒性(魚類)
環境データ
適用法令等
  • 海洋汚染防止法:有害液体物質Y類
  • 労働安全衛生法:管理濃度0.005 ppm(20℃換算で0.035 mg/m3

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献