■用途
ニッケルは、銀白色で、腐食しにくく、展延性に富む金属です。ステンレス鋼やニッケル含有特殊鋼の原料に使われるほか、耐熱鋼、磁石鋼、耐酸合金などさまざまなニッケル合金の製造に使われ、ニッケル-水素電池の電極や触媒などにも使用されます。また、純粋な金属ニッケルは、硬貨、家具や実験器具などの製造に使われたり、メッキに使われています。
主なニッケル化合物と用途には以下があります。
ニッケル化合物の性状と用途
| 物質名 |
CAS番号 |
組成式 |
性状 |
代表的な用途 |
| 一酸化ニッケル |
1313-99-1 |
NiO
| 緑色の固体 水に溶けにくい |
ステンレス鋼・特殊鋼の原料、ガラスや陶磁器の着色剤 |
| 三酸化二ニッケル |
1314-06-3 |
Ni2O3 |
灰色〜黒色の固体 水に溶けにくい |
電池 |
| 炭酸ニッケル |
3333-67-3 |
NiCO3 |
淡緑色の固体 水に溶けにくい |
メッキ |
| 酢酸ニッケル |
6018-89-9 |
Ni(CH3COO)2 |
淡緑色の固体 水に溶けやすい |
アルマイトの着色剤 |
| 塩化ニッケル |
7718-54-9 |
NiCl2 |
黄緑色の固体 水に溶けにくい |
メッキ |
| 硫酸ニッケル |
7786-81-4 |
NiSO4 |
緑色の固体 水に溶けやすい |
メッキ、電池、触媒 |
硫化ニッケル
(二硫化三ニッケル) |
12035-72-2 |
Ni3S2 |
金属光沢のある、淡黄色を帯びた青銅色の塊 |
触媒 |
| ニッケルカルボニル |
13463-39-3 |
Ni(CO)4 |
無色透明の揮発性がある液体 |
ニッケル製造の中間原料 |
| 硝酸ニッケル |
13478-00-7 |
Ni(NO3)2 |
緑色の固体 水に溶けやすい |
触媒、電池 |
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に合計で約660トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが、非鉄金属製造業や鉄鋼業などの事業所のほか下水処理施設などから排出されたもので、事業所内において埋立処分されたほか、河川や海などへ排出されたり、大気中へも排出されました。この他、鉄鋼業や金属製品製造業などの事業所から廃棄物として約2,800トン、下水道へ約22トンが移動されました。
ニッケル化合物は、大気汚染防止法で有害大気汚染物質の優先取組物質に指定され、事業者による自主的な排出削減が進められています。この自主管理に参加している事業者から大気中へ排出された量は、1999年度は1995年度に比べて、硫化ニッケル(二硫化三ニッケル)が62%、硫酸ニッケルが67%削減されています1)。2003年度には1999年度の排出量に比べて、硫化ニッケル(二硫化三ニッケル)と硫酸ニッケルを合わせて28%削減されています1)。
環境中へ排出されたニッケル及びニッケル化合物で水に溶けにくいものは、土壌に吸着されたり、一部は浮遊微粒子となり、地下水や河川によって海へ運ばれたりします2)。
また、ニッケルは土壌中や鉱石、大気中など、自然界に広く存在しています。地殻の表層部には重量比で0.01%程度存在し、クラーク数で24 番目に多い元素です。大気中へは、風による土壌からの巻上げと火山活動、植物からの放出などによってもたらされるとされています3) 4)。
■健康影響
毒 性 ニッケル及びニッケル化合物の毒性は、金属ニッケルと化合物では異なり、また化合物の種類によっても異なります。
ニッケル化合物は、細菌を用いた変異原性の試験では陰性を示したと報告されていますが、ほ乳類の培養細胞を用いた試験のなかでは突然変異の例などの報告もあります3) 4) 5)。発がん性については、これまでにニッケル化合物に起因した人に対する発がん性が確認されたのは、ニッケル精錬所においてのみで、作業者に呼吸器のがんが報告されています3) 4) 5)。これは、高濃度のニッケル酸化物と二硫化三ニッケルを含んだ精錬粉じんを取り込んだことによると考えられています3) 4) 5)。また、水溶性のニッケル化合物は、他のニッケル化合物と相互作用を起こし、発がん性を高める可能性があるとされています3) 4) 5)。一方、金属ニッケルについては人のがんに関与する証拠はみつかっていません3) 4) 5) 6)。
このようにニッケルは化学形態によって発がん性の評価が異なりますが、国際がん研究機関(IARC)では、ニッケル化合物を一つのグループとして評価してグループ1(人に対して発がん性がある)に、金属ニッケルをグループ2B(人に対して発がん性があるかもしれない)に分類しています3) 4) 5) 6)。わが国では、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図る観点から、精錬所における過去のデータに基づいてニッケル化合物の有害大気汚染物質の指針値が設定されています3) 。
また、ラットに硫酸ニッケルを2年間、餌に混ぜて与えた実験では、臓器重量の変化が認められ、この実験から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日5 mgでした7)8)。この実験結果から、世界保健機関(WHO)はTDI(耐容一日摂取量)を体重1 kg当たり1 日0.005 mg(旧版)と算出しており、これに基づいて水道水質管理目標値(暫定値)が設定されています8)。
ニッケルカルボニルをラットやハムスターに吸入させた実験では、生まれた子に奇形が報告されています9)
。
体内への吸収と排出 人がニッケル及びニッケル化合物を体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水、呼吸によると考えられます3) 4)。なかでも食物からの取り込み量が大部分を占めていると考えられ3) 4)、人は毎日、食物から平均0.12 mgを摂取しているとされています10)。体内に取り込まれた場合は腸で吸収され、尿や汗などに含まれて排せつされます2)。また、吸収されなかったニッケル及びニッケル化合物は、便に含まれて排せつされます2)。
影 響 ニッケルは、自然界に広く存在する元素であり、環境中から検出されています。水道水からは水道水質管理目標値(暫定値)を超える濃度のニッケルは検出されていません。過去に、水道水原水から水道水質管理目標値(暫定値)を超える濃度が検出された例がありました8)。これらの水を長期間飲用するような場合を除いて、飲み水などを通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
環境省の調査では、大気中から有害大気汚染物質の指針値を超える濃度のニッケルが検出されています。しかし、ニッケル及びニッケル化合物は、化学形態によって体内への吸収率が大きく変わると考えられます。この指針値は、化学形態にかかわらずニッケルとして健康リスクの低減を図る観点で設定されたもので、指針値を超えたとしても、直ちに人の健康に影響があることを示すものではありません。
なお、(独)産業技術総合研究所では、ニッケルについて詳細リスク評価を行っています11)。
■生態影響
ニッケル化合物は、塩化ニッケルの甲殻類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できるPNEC(予測無影響濃度)は算定されていません。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、ニッケル化合物について、藻類の生長速度を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響を評価しており、現時点では水域によっては環境中の水生生物に悪影響を及ぼすことが示唆されるとして、ニッケル化合物を詳細な調査や評価などを行う必要がある候補物質としています5)。
この他、(独)産業技術総合研究所では、ニッケルについて全ニッケル濃度ではなく水中のさまざまな化学形態を考慮に入れた上での詳細リスク評価を行っています11)。
| 性 状 |
ニッケル:銀白色の固体
ニッケル化合物:用途の項を参照 |
生産量12)
(2010年) |
【ニッケル】
国内生産量:約4,000トン
輸 入 量:約43,000トン
輸 出 量:約10,000トン
【酢酸ニッケル】
国内生産量:約4,000トン(推定)
【硫酸ニッケル】
国内生産量:公表データなし
輸 入 量:約9,400トン (ニッケルの硫酸塩)
輸 出 量:約5,200トン (ニッケルの硫酸塩) |
排出・移動量※
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約660トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
76 |
大気 |
3 |
| 事業所(届出外) |
24 |
公共用水域 |
29 |
| 非対象業種 |
− |
土壌 |
0 |
| 移動体 |
− |
埋立 |
68 |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約500トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 非鉄金属製造業 |
74 |
| 鉄鋼業 |
19 |
| 金属製品製造業 |
3 |
| 電気機械器具製造業 |
1 |
| 輸送用機械器具製造業 |
1 |
| 事業所(届出)における移動量:約2,800トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
99 |
下水道への移動 |
1 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 鉄鋼業 |
28 |
| 金属製品製造業 |
19 |
| 電気機械器具製造業 |
15 |
| 化学工業 |
9 |
| 輸送用機械器具製造業 |
9 |
PRTR対象 選定理由 |
ニッケル:発がん性,経口慢性毒性,吸入慢性毒性,作業環境許容濃度,感作性
ニッケル化合物:発がん性,変異原性,吸入慢性毒性,生殖・発生毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(塩化ニッケル;甲殻類) |
| 環境データ |
大気(ニッケルとして測定)
- 有害大気汚染物質モニタリング調査:指針値超過数1/192地点,平均濃度0.0000036 mg/m3,最大濃度0.00001 mg/m3;[2009年度,環境省] 13)
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数;原水0/1568地点,浄水0/2232地点;[2009年度,日本水道協会]14)15)
公共用水域(ニッケルとして測定)
- 公共用水域水質測定(要監視項目):検出数293/1093地点,最大濃度0.52 mg/L;[2009年度,環境省] 16)
地下水(ニッケルとして測定)
- 地下水質測定(要監視項目):検出数70/365地点,最大濃度0.028 mg/L;[2009年度,環境省] 17)
生物(鳥)
- 化学物質環境実態調査(ニッケルとして測定):検出数0/8検体(
検出下限値0.05 mg/kg);[1980年度,環境省] 18)
生物(貝)
- 化学物質環境実態調査(ニッケルとして測定):検出数15/15検体,最大濃度0.68 mg/kg;[1979年度,環境省] 18)
生物(魚)
- 化学物質環境実態調査(ニッケルとして測定):検出数0/40検体(検出下限値0.05 mg/kg);[1979年度,環境省] 18)
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| 適用法令等 |
- 大気汚染防止法:特定物質(ニッケルカルボニル),有害大気汚染物質(優先取組物質)
- 有害大気汚染物質指針値:0.000025 mg/m3以下(1年平均値)
- 水道法:水道水質管理目標値0.01 mg/L以下(暫定値,ニッケルの量に関して)
- 水質要監視項目:−(指針値は設定されていない)
- 労働安全衛生法:ニッケルカルボニル 管理濃度0.001 ppm(20℃換算で0.007 mg/m3)
- 労働安全衛生法:ニッケルとして(ニッケルカルボニルを除き粉状の物に限る) 管理濃度0.1 mg/m3
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
※ 本データは、ニッケルの排出・移動量とニッケル化合物の排出・移動量を合計した数値です。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献