■用途
ベンジル=クロリド(以下「塩化ベンジル」と表記します)は、常温で無色透明の液体で、揮発性物質です。刺激性の臭いがあります。染料、顔料、香料、殺菌洗浄剤などの他の化学物質の原料として使われています。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約0.28トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてが中小の事業所や化学工業の事業所から排出されたもので、主に大気中へ排出されたほか、河川や海などへも排出されました。この他、化学工業の事業所から廃棄物として約4.8トン、下水道へ約0.002トンが移動されました。
■環境中での動き
大気中へ排出された塩化ベンジルは、雨滴に触れると加水分解されやすく、一部分はベンジルアルコールに変化して、降雨とともに地表に降下すると考えられます1)。また、化学反応によっても分解され、3〜6日で半分の濃度になると計算されています1)。環境水中での動きについては報告がありませんが、化審法の分解度試験では微生物分解されやすいとされています1)。加水分解によってベンジルアルコールが生成されますが、ベンジルアルコールも微生物によって容易に分解されるとされています2)。
■健康影響
毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日30 mgの塩化ベンジルを2年間、口から与えた実験では、甲状腺の変性や肺での過形成が認められました3)。また、ラットとモルモットに148 mg/m3の濃度の塩化ベンジルを含む空気を27週間吸入させた実験では、腎臓及び脾臓重量の増加が認められました3)。
この他、ラットに塩化ベンジルを26週間、口から与えた実験では、前胃の粘膜上皮に角化亢進が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日15 mgでした1)。また、ラットに塩化ベンジルを含む空気を5週間吸入させた実験では、鼻に対する刺激やあえぎ呼吸が認められ、この実験結果から求められる呼吸によって取り込んだ場合のNOAELは180 mg/m3でした1)。
ほ乳動物の細胞などを使った変異原性の試験において、陽性を示したと報告されています1)3)。また、労働者を対象とした疫学調査では、塩化ベンジルを含むα-塩素化トルエン類及び塩化ベンゾイルを一緒に含む空気を吸い込んだ場合に、呼吸器系がんなどの増加が報告されています3)。国際がん研究機関(IARC)は塩化ベンジルを含むα-塩素化トルエン類及び塩化ベンゾイルをグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類していますが、塩化ベンジルのみを取り込んだ場合の発がん性については判断できないとしています3)。
体内への吸収と排出 人が塩化ベンジルを体内に取り込む可能性があるのは、呼吸などによると考えられます。体内に取り込まれた場合は、動物実験では、代謝物に変化し、主に尿に含まれて排せつされたと報告されています1)3)。
影 響 食物や飲み水を通じて口から塩化ベンジルを取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、甲状腺の変性などが認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日6.4 mgとしています3)。塩化ベンジルの飲料水中濃度の測定データがないため、地下水の測定データ(検出下限値0.00005 mg/L以下)及び食物中濃度(検出下限値0.00006 mg/kg以下)から計算すると、人が口から取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.000004 mgと予測されます3)。これは、上記の無毒性量等よりも十分に低く、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
呼吸によって塩化ベンジルを取り込んだ場合について、この環境リスク初期評価では、腎臓及び脾臓重量の増加が認められたラットとモルモットの実験結果に基づいて、無毒性量等を1.1 mg/m3としています3)。これまでの全国レベルの測定では、大気中から検出された最大濃度は0.0000083 mg/m3であり、この無毒性量等よりも十分に低く、呼吸から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます3)。
なお、(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、口から取り込んだ場合について、前胃の粘膜上皮に角化亢進が認められたラットの実験におけるNOAELと地下水中濃度及び食物中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。呼吸によって取り込んだ場合については、鼻に対する刺激などが認められたラットの実験におけるNOAELと大気中濃度の推計値を用いて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.001 mg/Lとしています4)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。なお、塩化ベンジルは魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECは魚類の有害性から導くPNECより低い値4)で、より安全側に立った評価値として設定されています。
(独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」でも、エビの死亡を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています1)。
| 性 状 |
無色透明の液体 揮発性物質 |
生産量
(2010年) |
国内生産量:公表データなし |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:約0.28トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
42 |
大気 |
80 |
| 事業所(届出外) |
58 |
公共用水域 |
20 |
| 非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
| 移動体 |
− |
埋立 |
− |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:約0.12トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
100 |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| 事業所(届出)における移動量:約4.8トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
0 |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| 化学工業 |
100 |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
PRTR対象 選定理由 |
発がん性,変異原性,生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
大気
- 化学物質環境実態調査:検出数5/21検体, 最大濃度0.0000083 mg/m3;[1989年度,環境省]5)
公共用水域
- 要調査項目存在状況調査:検出数1/76地点,最大濃度0.00005 mg/L;[2000年度,環境省]6)
地下水
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/15地点(検出下限値0.00005 mg/L);[2000年度,環境省]6)
底質
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/24地点(検出下限値0.001 mg/kg);[2002年度,環境省]7)
生物(魚)
- 化学物質環境実態調査:検出数0/2検体(検出下限値1.0 mg/kg);[1976年度,環境省]5)
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| 適用法令等 |
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献