■用途
N-メチルカルバミン酸2,3-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ベンゾ[b]フラニル(以下「カルボフラン」と表記します)は、常温では無色の固体です。殺虫剤の有効成分(原体)として使われているカルボスルファン、ベンフラカルブやフラチオカルブが分解することによって、カルボフランが生成されるとされています。カルボフラン自体は農薬登録がなされていないため、わが国では農薬として使われることはありませんが、海外では殺虫剤として使われています。
カルボフランは、昆虫の体内にあるアセチルコリンエステラーゼ(神経の伝達に関与するアセチルコリンを分解する酵素)に作用します。この酵素の働きを失わせることによって、害虫を継続的に興奮状態にしてけいれんなどを起こし、死に至らせます。
■排出・移動
2010年度のPRTRデータによれば、わが国ではカルボフランの環境中への排出はありませんでした。なお、廃棄物や下水道への事業所からの移動もありませんでした。カルボスルファンが加水分解することによって生成されます。
■環境中での動き
カルボフランは、土壌中では30〜117日で、水中では8日で半分の濃度になったとされています1)。大気中では化学反応によって分解され、2.5〜25時間で半分の濃度になると計算されています1)。
■健康影響
毒 性 カルボフランは、マウスの赤血球細胞を使った染色体の異常を調べる試験で陽性を示したと報告されています2)。これに関して、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同残留農薬専門家会議(JMPR)は、1996年の評価において、カルボフランは変異原性をもたないとしています3)。なお、国際がん研究機関(IARC)はカルボフランの発がん性を評価していません。
生後11日のラットにカルボフランを口から与えた急性毒性試験において、脳内のアセチルコリンエステラーゼ(神経の伝達に関与するアセチルコリンを分解する酵素)の活性阻害が認められ、この実験結果から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日0.03 mgでした4)。
この実験結果に基づいて、2008年にJMPRは、カルボフランのADI(一日許容摂取量)を体重1 kg当たり1日0.001 mgと再評価しました4)。わが国ではカルボフランのADIを体重1 kg当たり1日0.002 mgと算出し、これに基づいて水道水質管理目標値が設定されています5)。
なお、労働安全衛生法による管理濃度、日本産業衛生学会による作業環境許容濃度は設定されていませんが、カルボフランについて、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)は1日8時間、週40時間の繰り返し労働における作業者の許容濃度を0.1 mg/m3と勧告しています。
体内への吸収と排出 人がカルボフランを体内に取り込む可能性があるのは、食物や飲み水によると考えられます。体内へ吸収された場合は、ラットの実験によると、32時間以内に加水分解され、投与された量の45%が呼気に、38%が尿に、4%がふんに含まれて排せつされました3)。
影 響 水道水、河川や地下水からは水道水質管理目標値を超える濃度のカルボフランは検出されていませんが、食物からカルボフランは検出されています。
■生態影響
環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの死亡を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.000013 mg/Lとしています1)。これまでにPNECを超える濃度が河川などから検出されたことがあり、環境省ではカルボフランを詳細な評価を行う候補としています1)。なお、カルボフランは、魚類に対する有害性からもPRTR制度の対象物質に選定されていますが、上記のPNECは魚類の有害性から導くPNECより低い値1)で、より安全側に立った評価値として設定されています。
| 性 状 |
無色の固体 |
生産量
(2010年) |
国内生産量:− |
排出・移動量
(2010年度 PRTRデータ) |
環境排出量:−トン |
排出源の内訳[推計値](%) |
排出先の内訳[推計値](%) |
| 事業所(届出) |
− |
大気 |
− |
| 事業所(届出外) |
− |
公共用水域 |
− |
| 非対象業種 |
− |
土壌 |
− |
| 移動体 |
− |
埋立 |
− |
| 家庭 |
− |
(届出以外の排出量も含む) |
| 事業所(届出)における排出量:−トン |
業種別構成比(上位5業種、%) |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| 事業所(届出)における移動量:約0.032トン |
移動先の内訳(%) |
| 廃棄物への移動 |
100 |
下水道への移動 |
− |
| 業種別構成比(上位5業種、%) |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
| − |
− |
PRTR対象 選定理由 |
変異原性,経口慢性毒性,作業環境許容濃度,生態毒性(魚類) |
| 環境データ |
水道水
- 原水・浄水水質試験:水道水質管理目標値超過数(カルボスルファン代謝物);原水0/844地点,浄水0/842地点;[2009年度,日本水道協会]6) 7)
公共用水域
- 化学物質環境実態調査:検出数0/15検体(検出下限値0.000007 mg/L);[2005年度,環境省]8)
- 要調査項目存在状況調査:検出数1/40地点,最大濃度0.00004 mg/L;[2003年度,環境省]9)
地下水
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/10地点(検出下限値0.0001 mg/L);[2003年度,環境省]9)
底質
- 要調査項目存在状況調査:検出数0/24(検出下限値0.005 mg/kg);[2002年度,環境省] 10)
- 化学物質環境実態調査:検出数0/72検体(検出下限値0.04 mg/kg);[1992年度,環境省]8)
生物(魚)
- 化学物質環境実態調査:検出数0/69検体(検出下限値0.02 mg/kg);[1992年度,環境省]8)
食事
- 化学物質環境実態調査:検出数 14/178検体,最大濃度0.00012 mg/kg;[2006年度,環境省]8)
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| 適用法令等 |
- 水道法:水道水質管理目標値0.005 mg/L以下(農薬類;カルボフラン)
- 食品衛生法:残留農薬基準 例えば,米(玄米)0.1 ppm,ばれいしょ0.5 ppm(カルボフラン及びカルボフランの代謝物である3-OHカルボフランをカルボフラン含量に換算したものの和。ただし、カルボフラン又は3-OHカルボフランが検出され、加えてカルボスルファン、フラチオカルブ又はベンフラカルブが検出された場合には、それぞれの物質につき定められた規格基準を適用することとし、カルボフランに係る規格基準によらないこと)
- 農薬取締法:水質汚濁に係る農薬登録保留基準値(0.05 mg/L)
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注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■引用・参考文献
■用途に関する参考文献