リスクコミュニケーションのための化学物質ファクトシート
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作成年: 2012年

りん酸トリス(2-クロロエチル)

別   名 TCEP、トリス(2-クロロエチル)ホスフェート
管理番号 459
PRTR政令番号 1-512(化管法施行令(2021年10月20日公布)の政令番号)
C A S 番 号 115-96-8
構 造 式 りん酸トリス(2-クロロエチル)構造式
  • りん酸トリス(2-クロロエチル)は、合成樹脂に添加する難燃剤などとして使われています。
  • 2010年度のPRTRデータでは、環境中への排出量は約0.35トンでした。すべてが事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。

■用途

 りん酸トリス(2-クロロエチル)は、常温で無色透明の液体です。ウレタン樹脂をはじめ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂に添加する難燃剤として使われるほか、潤滑油の添加剤として使われています。

■排出・移動

 2010年度のPRTRデータによれば、わが国では1年間に約0.35トンが環境中へ排出されたと見積もられています。すべてがプラスチック製品製造業の事業所から排出されたもので、すべて大気中へ排出されました。この他、化学工業などの事業所から廃棄物として約0.29トンが移動されました。

■環境中での動き

 大気中へ排出されたりん酸トリス(2-クロロエチル)は、化学反応によって分解され、6.42〜12.8時間で半分の濃度になると計算されています1)。環境水中へ排出された場合は、大部分は水中を移動すると考えられます2)

■健康影響

毒 性 りん酸トリス(2-クロロエチル)は、変異原性の試験で陽性と陰性の両方を示したと報告されています2)。また、発がん性について、ラットにおいて尿細管上皮過形成と尿細管腺腫の発生率の増加がみられていますが、動物実験では限られた証拠しかなく、人での発がん性に関する証拠もないため、国際がん研究機関(IARC)はりん酸トリス(2-クロロエチル)をグループ3(人に対する発がん性については分類できない)に分類しています1) 2)
 雌のラットにりん酸トリス(2-クロロエチル)を16週間、口から与えた実験では、肝臓と腎臓の重量増加が認められ1) 2) 、この実験から求められる口から取り込んだ場合のNOAEL(無毒性量)は、体重1 kg当たり1日22 mg(換算値16 mg)とされています1) 2)

体内への吸収と排出 人がりん酸トリス(2-クロロエチル)を体内に取り込む可能性があるのは、呼吸、食物や飲み水によると考えられます。難燃剤として使われているため、難燃加工製品からりん酸トリス(2-クロロエチル)が発生し、室内空気中からも取り込まれる可能性があります2)。体内に取り込まれた場合は、ラットによる実験では、いくつかの代謝物に変化し、24時間以内に投与量の75%以上が主に尿に含まれて排せつされたと報告されています2)

影 響 食物や飲み水を通じて口からりん酸トリス(2-クロロエチル)を取り込んだ場合について、環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、肝臓と腎臓の重量増加が認められたラットの実験結果に基づいて、無毒性量等を体重1 kg当たり1日16 mgとしています1)。りん酸トリス(2-クロロエチル)の食物中濃度や水中濃度から計算すると、人が口から取り込む量は最大で体重1 kg当たり1日0.00021 mg/kgと予測されます1)。これは、上記の無毒性量等よりも十分に低く1)、食物や飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。呼吸によって取り込んだ場合については無毒性量等が設定できず、健康へ影響を与えるかどうか判断できていません1)
 なお、 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」では、口から取り込んだ場合について、環境省と同じラットの実験におけるNOAELと地下水中濃度の実測値及び食物中濃度の測定データ(不検出であり、検出下限値の1/2の値を用いた)を用いて、人の健康影響を評価しており、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)。また、呼吸から取り込んだ場合のNOAEL等は得られていませんが、上記の評価に呼吸からの取り込み量を加えて評価し、この場合も、現時点では人の健康へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

■生態影響

 環境省の「化学物質の環境リスク初期評価」では、ミジンコの繁殖阻害を根拠として、水生生物に対するPNEC(予測無影響濃度)を0.1 mg/Lとしています1)。これまで得られた河川や海域の水中濃度はこのPNECよりも十分に低いため、この結果に基づけば水生生物への影響は小さいと考えられます。
 なお、 (独)製品評価技術基盤機構及び(財)化学物質評価研究機構の「化学物質の初期リスク評価書」でも、ミジンコの繁殖阻害を指標として、河川水中濃度の実測値を用いて水生生物に対する影響について評価を行っており、現時点では環境中の水生生物へ悪影響を及ぼすことはないと判断しています2)

性 状 無色透明の液体 
生産量
(2010年)
国内生産量:公表データなし
排出・移動量
(2010年度
PRTRデータ)
環境排出量:0.35トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 100 大気 100
事業所(届出外) 公共用水域
非対象業種 土壌
移動体 埋立
家庭 (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における排出量:0.35トン 業種別構成比(上位5業種、%)
プラスチック製品製造業 100
事業所(届出)における移動量:約0.29トン 移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動
業種別構成比(上位5業種、%)
化学工業 96
プラスチック製品製造業 4
PRTR対象
選定理由
変異原性
環境データ

大気

  • 化学物質環境実態調査:検出数24/37検体,最大濃度0.0000014 mg/m3;[1998年度,環境省]3)

公共用水域

  • 化学物質環境実態調査:検出数36/70検体,最大濃度0.0012 mg/L;[1993年度,環境省] 3)

底質

  • 要調査項目存在状況調査:検出数2/24地点,最大濃度0.012 mg/kg;[2002年度,環境省] 4)
  • 化学物質環境実態調査:検出数22/72検体,最大濃度0.085 mg/kg;[1993年度,環境省]3)

生物(魚)

  • 化学物質環境実態調査:検出数9/75検体,最大濃度0.29 mg/kg;[1993年度,環境省] 3)
適用法令等
  • 廃棄物処理法:特定有害産業廃棄物,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準(汚泥)1 mg/L以下

注)排出・移動量の項目中、「−」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。

■引用・参考文献

■用途に関する参考文献